【コミック】ブルーピリオドが面白い

月一文化部、今月はマンガ大賞2020を受賞した「ブルーピリオド(山口つばさ作)」

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あらすじ:成績優秀リア充高校生の矢口八虎は、ある日見た絵画に心を奪われる。その日をきっかけに、美術にのめり込んでゆく…。

現時点(2020/4/5)で7巻まで出ていて、まだまだ続きそう。1巻~6巻が美術との出会い~藝大受験編、7巻~が大学編。

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マンガ大賞はなんとなく毎年気になっていて、受賞作品をマンガサイトの1巻分無料キャンペーンで読んだりしていたけれど、自分で購入してまで読みたいと思える作品には出会ったことがなかった。本・マンガは紙で読みたい派かつ一人暮らしの私にとって、「何度も読み返すくらい好き」な作品しか手元に置くスペースはない。そうなると必然的に密度の濃い本>>>>マンガで、ブルーピリオドが仲間になるまでは、1冊しかマンガはなかった。(ちなみにそれは「百姓貴族1」)

そんな状況にも関わらずブルーピリオドを買うに至った理由は、読むことで自然に「私が八虎だったら?」と考えさせられ、自分の人生ややりたいことを真剣に考えさせられたから。作品内で八虎は常に「何を表現したいんだ?」と様々な角度から問い詰められる。親に「なぜ美大なの?」と聞かれ、予備校の先生に「真面目であることに意味はない」と言われ、友達に「最近どうなの?」と聞かれ、受験では「お前は何者なのか?」と問われる。八虎はいつも苦しんでいるけれど、弱い自分から目をそらさない。八虎は「お前は何を表現したい?」と問われ続けるが、それは「お前はどう生きたいのか?」と聞かれていることと同義だ。そして、それを読んでいる私たちも「お前はどう生きたい?」と問われている。

どんな立場の人であれ、忙しい日々の中で立ち止まり『自分はどう生きたいのか?』を考えるのは難しい。考えなくても生きられちゃうし、自分の弱いところや嫌な部分を見なくて済む。でもそうすると、なんとなく空虚で物足りないような気がする。だから立ち止まってみるけど、人生なんて壮大すぎてどこから考えればいいかわからない。この作品は、マンガという入り込みやすい媒体で『どう生きる?』という本質的なテーマを読者に問いかける。八虎が壁にぶち当たるとき(そして彼は常に様々な壁にぶち当たっている)、読者は作者から『お前はどう生きたいんだ?』と問いかけられている。

『何を表現したい?=どう生きたい?』に対する唯一の答えはないし正解もない。個々人の中にしか答えはなく、たどり着かない人もいるし、必ずしもたどり着く必要もない。でも、八虎は自分から決して目をそらさず、七転八倒しながら自分の心を誠実に見つめている。八虎を自分に重ね合わせながら読み進めると、自然に自分のいい部分、悪い部分、情けない部分を見つめることになる。そして、八虎がライバルから悪態つかれつつ褒められることで自己肯定ができるようになる様子を見て、まるで自分のことのように勇気づけられる。

まだ完結していないからこの作品のテーマを一言でまとめることはためらわれる。でも、現時点で私が作品から受け取ったメッセージは「自分に誠実で自由であれ」だ。弱い自分も情けない自分も受け入れたうえで、何をするかは自分で決められる。自分をきちんと見つめて、自分の弱さを受け入れて、好きなことをすればいい。

これだけの奥行きのあるマンガは初めてだ。きっとこれからも何度も何度も、自分の人生の転換点で読み返し、そのたびに新しい発見があるのだろう。手元に置いておきたい、ブルーピリオド。どんな人が読んでもその人なりの発見がある作品だと思う。