【書評】『人に頼む技術』 ハイディ・グラント

どうすれば気持ちよく人に頼むことができるのか?

仕事でもプライベートでも、人に何かを頼むのが苦手。 自分は他人から何かを頼まれるのがそんなに嫌いではないけれど、自分が頼む立場になると
・馬鹿にされるんじゃないか
・負荷をかけることで嫌われないかな
などなど、ネガティブな妄想が海より深く山より高く広がっていく。
そこで、購入したのが『人に頼む技術 Reinforcements』 ハイディ・グラント著

この本は大きく3部構成で、どうすれば他人に嫌な顔をされずに頼み事ができるのか、さまざまな心理学の知見をもとに書かれている。

①なぜ頼み事は難しいのか

・人に頼み事をすると死にそうな気分になり、実際に痛みを感じたのと同じ脳の状態になる

・人に頼み事をするのは、自ら5タイプの社会的脅威に身を晒していることになる。
①「ステータスの脅威」⇨自分の価値が落ちる
②「確実性の脅威」⇨相手がOKと言ってくれるか分からない、未来が予測できないストレス
③「自律性(オートノミー)の脅威」⇨自分で物事のコントロールができないストレス
④「関係性の脅威」⇨拒絶されたら一人ぼっちのような気分になる…ストレス
⑤「公平性の脅威」⇨他者と公平でいる権利を自ら放棄する

・だが実は、ひとは「断られる」可能性を実際よりも高く見積る。

・頼まれた人の「No」というストレスを見過ごす。代わりに、相手にかかる負荷に着目しがち。

・想像より多くの人が、「人を助けたいと思っている」
Door in the face, Foot in the door

・1回目の依頼を断ると、2回目は受けてくれやすくなる。
さらに、1回目OKすると、2回目もOKしやすくなる(認知的不協和を発生させないため、一貫した信念を貫きたいという欲求が生まれる)

・”助けることは、助けられることより印象をよくする”というのは間違い。むしろ嫌われることもある。

・助けることで、相手に更に好意を抱く

・嫌な印象を抱いている人の頼みに応じることで、相手への嫌な印象が薄まる。大きな頼みに応じると、相手がいい人のように思える。

・助けをと揉めることで、相手から悪印象を抱かれることはほぼない。

・助けることは、気分を高め、ひどい気分を和らげ、罪悪感の解毒剤となる。

②良い頼み方、悪い頼み方

・頼み事への4つの反応
①拒否 ②無視 ③消極的承諾 ④積極的承諾

・頼み事への2つの反応
①”助けたい”(内発的動機) ②”助けなければならない”(コントロールされている感覚)

・内発的動機に支えられた行動は、エネルギーを強化し、良いパフォーマンスを引き出す

・逆にコントロールされている(報酬、脅威、監視、期限、プレッシャーがある状態だ)と、”助けなければならない”と感じさせてしまう

・「返報性」
①個人的返報性(1あげるから1返してね=ビジネス上の貸し借り)
②関係的返報性(親密な人との間で、いつか返してもらうという前提で無償で助ける)
③集団的返報性(内集団の中での一般的な助け合い)

・自分が助けを求めている時、思ったより周りに伝わっていない。

・助けてもらうための4STEP
STEP1:相手に気づかせる
みんな意外と周囲のことに気づいていない。Invisible Gorillaという有名な心理実験で、何か依頼されて作業に集中しているときは、約半数の人は、ゴリラの着ぐるみが通り過ぎても気がつかないという実験結果が出ている。

STEP2:助けを求めていると確信させる
人は他人の心は読めないし、リスクがあるために手助けを躊躇う。困っていないのに助けが必要だと誤解するリスク、求められていないのに助けようとして嫌がられるリスク。これらを避けるためには、直接助けを求めるのがいちばん(Help Me!)

STEP3:助ける側は責任を負わなければならない
大勢に漠然とたすけて、と言っても「責任の分散」で助けてもらえないリスクがある。(傍観者効果 - Wikipedia  e.g.キティ・ジェノヴィーズ事件 - Wikipedia

STEP4:助ける人が、必要な助けを提供できる状態でなければならない
①「なにを求めていて、どの程度の助けが必要か、詳細にはっきり伝える」
②「妥当な量の依頼」
③「求めていたものを違っても受け入れる」

・助けを求めるのが難しいのは、”何を言い何をすべきか”だけでなく、”何をいうべきでないか、すべきでないか”もポイントになるから。

・NG例は、
ー共感に頼りすぎている(「60秒ごとにアフリカでは子供が一人死んでいます」からは目を背けたくなる心理)
ーやたら謝る(チーム感が失われる)
ー言い訳する
ー楽しさを強調
ー頼み事が些細だとアピールする(意外と時間がかかることも多々ある)
ー借りがあることを思い出させる(コントロールされたと思われる)
ー助けられた自分のメリットを強調(「おかげでリラックスできたよ」(自己利益)、よりも、「本当に君はこの作業が上手だね」「自分を差し置いて私のためにありがとう」(他者称賛)の方が、うまくいく)

・助けを求めるときの3つのポイントは、
1、仲間意識 2、自尊心 3、有効性

③人を動かす3つの力

1、仲間意識…お前のためならやってやる

・人は相手を無意識で分類し、内集団と外集団に分ける。それは生きるために必要だから。

・集団に対して固有観念で判断を下す。

外集団に対しては、
ー同じような人間の集まりとみなす(慶應生は気取っている)
ー自分の集団との違いを誇張(慶應生は泥臭いことをしたがらない)
ーレッテルを貼る(早稲田生はみんな高田馬場のロータリーで寝る)
ーネガティブな先入観で接する

・内集団を贔屓したいと思う欲求は強い。それは、”集団を繁栄させ、自分のアイデンティティを守り、強めてもらいたい”から。
ー「一緒に」やると、他者とのつながりが感じられ、脳の報酬のように働く
ー共通の目標、共通の敵、共通の敵や感情があると仲間意識が醸造される。
⇨まずは共通の感情、経験を探すことで、同じ旅をしている仲間という感覚を作る。

2、自尊心…あなたにしか頼めないことなの

・自分自身ーアイデンティティ(自己概念)ー自己知識

・アイデンティティは、①自己認識(私はどんな人?)②自分のアイデンティティについてどう感じているか(私のことどう思ってる?)の2つで構成されている。
・人は基本的に自己評価が高い
ーあの人よりもマシ(下方社会的比較)
ー都合よく自分を説明(自尊心が高い人は、成功は自分の有能さゆえ、失敗は状況のせいにする)
ー現実から目を背けるために、失敗しそうなことがあると、あえて自分から失敗に突き進んでいく。セルフ・ハンディキャッピング(テストで失敗したのは、勉強しなかったから。別れることになったのは恋人と距離を置いていたから。)
・助ける側のアイデンティティを肯定するポイントを強調する

⇨自分にしかできない形で誰かを助けることで、自尊心が高まる

3、有効性…自分は人の役に立てている

・「人は快楽を求め、苦痛を避ける」という言説は正しく感じられるが、実は間違い

・人を助けることで、「有効性」を感じられる
自分の行動が現実社会に影響を及ぼしているという手応えを感じるから辛くても続けられる

⇅ 逆に…

・短期的:FBを得られないと、やる気が低下、タスクへの興味がなくなる

・長期的:FBが得られない状況が続くと、無力感が高まり、鬱状態になる

・有効性を感じていると、長期的に人を助けようとする可能性が高まる。
⇨効果を実感すると、疲れもふき飛ぶ

・有効性を高めるためには、
①求めている助けがどんなもので、それがどんな結果をもたらすかを事前に明確に伝える
②フォローアップする(事前にそれを伝えておく)
③できれば相手に好きな方法を選ばせる

読み終わって:理論はわかった。技術を身につけるのは本人の努力だ。

誰かに何かをお願いすると、実は嫌がられるのではなく、好意を持たれる。
他人は意外と他人を助けたいと思っているし、自分のことを冷静に振り返ると、確かに私は他人を助けることでエネルギーをもらえる。でもね、心理学的には頼んでOKだよってことはわかるんだけど、どうすればいいのかわからないのよ〜〜〜。仲間意識を醸造する、相手の自尊心を高める依頼の仕方、そして有効性を感じされる依頼…ってのを、どうすればいいのか、自分で工夫するしかないんだよね。