【書評】『私の名前はルーシー・バートン』『何があってもおかしくない』エリザベス・ストラウト

親子関係で傷ついた人や、過去に苦しむ人に読んで欲しい

エリザベス・ストラウトは、優しさと残酷さを一つの作品の中に包含できる稀有な作家だ。『私の名前はルーシー・バートン』『何があってもおかしくない』はイリノイ州アムギャッシュという、小さな田舎町に住む人々がそれぞれ抱える人生の苦しみを丹念に描き、同時に少しだけ希望が見える作品である。

 

 

母と娘の会話だけ、『私の名前はルーシー・バートン』

私の名前はルーシー・バートン
 

『私の名前はルーシー・バートン』では、大したことはおこらない。NYに住む作家のルーシーは、原因のわからない病気で入院をすることになる。病院に、絶対に来てはくれないだろうと思っていた母親が、イリノイ州の田舎町アムギャッシュから現れ、アムギャッシュに住む人々の話をする。そして気づくと母親は帰っており、ルーシーは治る。それだけの話だ。
それだけなのに、文章の間から少しずつ滲み出てくる、過去貧しかった時の苦しみ、分かり合えない親子関係、捨てきれない親への愛情などが、心を揺さぶる。

 

アムギャッシュに住む人々の背景を描く『何があってもおかしくない』

何があってもおかしくない (早川書房)

何があってもおかしくない (早川書房)

 

続編にあたる『何があってもおかしくない』(短編集)は、前作のルーシーと母親の会話で出てきたアムギャッシュの人々のその後の人生を描いている。生きている全ての人に、物語があり、嬉しかった瞬間もあれば、胸が抉られるような悲劇もある。誰しも、隣に愛する人がいてくれた記憶や、振り払えない悲劇とともに生きていくしかない。それでも人と人が関わり合うことで生まれる喜びの一つ一つが奇跡なんだ、と実感させてくれる短編集。

 

エリザベス・ストラウトの作品だと、オリーヴ・キタリッジの生活 (ハヤカワepi文庫)

 がドラマ化されており、有名だけど、ルーシー・バートンシリーズの方が、人に対する目線が優しくて好き。オリーヴ・キタリッジ、ふたたび という続編が出たので、こちらも読んでみたい。