【書評】『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』東畑開人著

2年前に『居るのはつらいよ』をよんでからファンになった東畑さんの最新の書き下ろし『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』を読みおわった。

紀伊國屋じんぶん大賞受賞の臨床心理士・東畑開人氏が贈る新感覚の“読むセラピー”
家族、キャリア、自尊心、パートナー、幸福……。
心理士として15年、現代人の心の問題に向き合ってきた著者には、強く感じることがあります。
それは、投げかけられる悩みは多様だけれど、その根っこに「わたしはひとり」という感覚があること――。
夜の海をたよりない小舟で航海する。そんな人生の旅路をいくために、あなたの複雑な人生をスッパーンと分割し、見事に整理する「こころの補助線」を著者は差し出します。
さあ、自分を理解し、他者とつながるために、誰も知らないカウンセリングジャーニーへ、ようこそ。

【目次】
まえがき 小舟と海鳴り
1章 生き方は複数である 処方箋と補助線
2章 心は複数である 馬とジョッキー
3章 人生は複数である 働くことと愛すること
焚火を囲んで、なかがきを―なぜ心理士になったのか-
4章 つながりは複数である シェアとナイショ
5章 つながりは物語になる シェアとナイショII
6章 心の守り方は複数である スッキリとモヤモヤ
7章 幸福は複数である ポジティブとネガティブ、そして純粋と不純
あとがき 時間をかける

発売は2022年4月で発売当初から「あ、新しい著作でたな」と思っていたものの、なんだか食指が動かずに5月後半に購入、6月の34歳になった記念に湯河原の温泉旅館でゆっくりと読んだ。

いやー、この人の著作、なかでも特に書き下ろしは、本当にきちんと丁寧に納得がいくまで練りに練って練って書き上げた感じがする。今回も非常に読み応えがあり、メルカリで売らずに本棚に収まって、たまにパラパラめくる本なりそうな予感がする。

****************************

今回の東畑さんの著作は、東畑さんがカウンセラー、読者がカウンセリングを受けるように、読んでいくうちに患者(自分)が、自分の心と対話しながら一歩一歩歩んでいけるようになっている。

いや、歩んでいくための船の航路図を示している、というべきかな。なぜなら、生身のカウンセリングと違い、さらっと内容だけ読むだけでは、自分が何を考えているのかについて深く自分の心を覗き込むことができない。(やっぱりカウンセリングという生身の心がぶつかり合う場の力は大きい。)

なので、私として4月5月に読む気が起きなかったのは、いろいろ忙しく自分の心を見つめ直す時間がないことを無意識に感じていたからかも、と感じた。仕事のことを忘れて、この本的に言うと、自分の行動をマネジメントしようとするこころの中にいる「ジョッキー」が少し手綱を緩め、思うがままに進む「馬」が動き出せる遊びがないと、この本は読んだところで“なんだかよくわからない話だなあ”となってしまっていた気がする。

必要な時に必要なものが手に入るようになっているんだなあ(みつを)

この本の中で東畑さんは、現代社会は「わたしはひとり」という孤独感を感じやすい社会構造になっており(個人の小舟化)、それがさまざまな悩みの源になっている。その悩みの源がひょこっと顔を出して、苦しい状態になってしまった時に、どのように悩みをとらえてアプローチすれば良いか。その苦しい状態になっている背景には何があるのか?を自分で考えるためのヒントが散りばめられている。
個人的には、第3章の「働くことと愛すること」は、CTIで学んだコーチングの「DoingとBeing」に通づるものがあるなぁと思った。Being=どのような自分であるのかを選択すること、Doing=何をするか、と考えると、かなりしっくり読み解くことができた。
そうやって考えると、心理学や自分の心の動きに興味関心がある人でないと、この本だけで独力で自己を癒すのは難しいかもしれないとも感じた。ただ、それでも苦しい状態にある人が何かのヒントを掴むための貴重な本であると思う。
この本はあくまでも「セラピー」であり、セラピーを受けた自分を癒し、治していくのは、自分の治癒能力でしかない。苦しいから変わりたい、という人が、この本で心の補助線を学び、自分の心と対話する時間ができればいいなあと感じた。
 
↓『居るのはつらいよ』の感想はこちら

coffeemeow.hatenablog.com